■ 恋する三半規管 15
神懸り的に面白すぎる。最高。超愛してる。
私の考えた映画のネタに感極まった彼女は涙を流しながらそう呟き、私に抱きついてきた。
といった展開をあわよくば予想していたが、私の読みは若干、はずれてしまったようである。
彼女は言葉を失っていた。
これが、私の予想通りに、感動のあまり声が出せない、みたいな状況だったら占め子の兎だが、
絶対にそうではないということが、彼女の戸惑い率100パーセントの表情、いわゆる困り笑顔といわれるその表情を見ればわかる。心持ち顔を赤くして困っている彼女はとても魅力的なうえに、私の邪悪な心の中にある、自分でも認識できないくらい小さくて、うまく言い表せないような何がしかの感情の固まりみたいなものが刺激され、本来ならばその場でえい、えい、おお、と、ときの声をあげて合戦の士気を盛り上げたい気分になっているはずだが、そんな幸せな状況に今はない。
「どうですか」私は再度、問い質した。
答えに困っている人に答えを急かすのは、その答えに困っている理由が「どうしたらこの人を傷つけずにお断りできるかしら」というものである場合、あまりやらない方がいいと思う。相手からしてみたら、婉曲的な、明確な輪郭はないんだけど雰囲気的にはお断りの方向で、みたいに持っていきたくて色々と言い回しを練っているところに、「はやくしてよー」と急かされると、そういう慎ましい苦労が馬鹿らしく思えてきてしまうというか、こっちはあなたを傷つけないためにこうやって頭を働かせてオブラートに包んで包んで包みまくってるというのにそれを「早くしろ」と急かすのか、となってしまう。面倒くさい言い方は結構ですので嫌なら嫌ととっととおっしゃってください、と皮肉を言っているようなもので、自分のことに気を遣ってくれている人に対して放つ言葉ではない。これはもはや暴言である。その暴力はやがて自分に返ってくるというのに。はっきりと拒絶されて、傷つくのは自分なのだから、こういう場合は、急かすことなく、相手が丁寧にオブラートに包んでいるのを、悲しい気持ちで待っているべきなのだ。
しかし若さゆえの急進さなのか、私は待つことが出来ずに、彼女に答えを急かしてしまった。
そして彼女は、「うーん」と唸った後に、案の定、私にとって非常に手厳しい一言を放ったのだった。
「それって、あんまり面白くない」
つづく
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